公共交通オープンデータ"最先端田舎"への挑戦
総務省の「ICT地域活性化大賞2019」で、中津川市が行う「公共交通オープンデータ"最先端田舎"への挑戦~インターネットによるバス経路検索の充実~」の取り組みが、応募総数115件の中から優秀賞を受賞しました。(一財)全国地域情報化推進協会(APPLIC)季刊誌「Future」Vol.22へ寄稿した記事をご紹介いたします。
目的と概略
地方の公共交通は、利用者減少による収益の悪化が、運行頻度の減少などのサービス低下を招き、それがさらなる利用者減少につながるという、負のスパイラルに陥っています。中津川市においても他の地方都市同様、市民の日常生活における主な移動手段は自家用車であり、公共交通、特に路線バスの利用者は年々減少傾向です。しかし、このような厳しい状況の中でも、学生や来訪者、観光客の移動手段を確保するために、公共交通の存在は欠かせません。
中津川市では、地域公共交通の活性化及び再生に関する法律に基づき、2018年3月に「中津川市地域公共交通網形成計画」を策定しました。少子高齢化、人口減少対策に取り組む「定住推進課」が公共交通を担当している強みを活かし、公共交通の活性化を通じて定住人口の増加につなげるという全国的に見ても珍しい目標を計画に掲げ、行政だけでなく交通事業者や地域住民と協働で事業を実施しています。
事業概要
中津川市では、国土交通省が2017年3月に策定した「標準的なバス情報フォーマット(GTFS-JP)」データを整備し、市内の幹線である北恵那交通株式会社の路線バスと、地域内を巡回する中津川市コミュニティバスについて、インターネットによる経路検索を可能としました。
整備したGTFS-JPデータは、バス事業者及び本市がそれぞれのWEBサイトにおいて公開し、オープンデータ化しています。これらのデータを活用することで、デジタルサイネージによるリアルタイムバス運行案内や、バスロケーションサービスの実施が容易に可能となりました。
ICTを活用することで公共交通の利便性を高め、衰退傾向の続く地域公共交通網の維持を図ります。これによって市民や来訪者が容易に移動でき、安心して暮らしていけるための基盤を構築していきます。
取り組みの詳細
サービスイメージやシステム構成
事業展開による効果・成果
ワンソース・マルチユースで地方バスの活性化に!
GTFS-JPデータの整備は、インターネットでの経路検索だけでなく、サイネージでの運行案内、調査・分析の基礎データ、バスロケーションサービス、各種アプリ開発などへの活用の可能性につながります。一つのデータ整備によってさまざまな施策に活用できる「ワンソース・マルチユース」で、バスの利便性向上、活性化に向けた各種の取り組みが可能となります。
事業展開のポイント
独創性・先進性
検索できなければ、バスは走っていないのと同じ!
近年のスマートフォンの普及により、外出時にインターネットによるバス経路検索を行うことが一般的になっていますが、地方の中小バス路線では対応が遅れており、潜在的な利用を失っていると考えられます。特に、中山道・馬籠宿といった著名な観光地を有する中津川市には、欧米からの観光客が路線バスを利用して多数訪れることから、多言語での公共交通情報の発信も求められていました。
インターネットによる経路検索を可能にするためには、GTFS-JPデータを自ら作成するか、業者に委託し作成してもらった上で、経路検索事業者に提供しなければなりません。しかし、データ作成には専門知識やコストが必要であり、経営が苦しく、人員に余裕がない地方の中小バス事業者の多くが対応できていません。
当市では、GTFS-JPデータを市職員が自ら作成することでコストをかけずに整備し、オープンデータ化しました。このデータを経路検索事業者に提供することで、市内を走る路線バスと市コミュニティバスについてインターネットによる経路検索が可能となりました。
継続性
バス事業者の生産性向上に向けて!
地方の中小バス事業者では、ダイヤ編成は経験と勘に基づく「職人技」で行われており、情報提供も紙媒体が中心であり多言語対応も進んでいません。当市でのGTFS-JPデータ整備をきっかけとして、北恵那交通では無償のダイヤ編成支援システム「その筋屋」を導入し、同社内でバスデータの作成が可能な体制を構築すべく、同社の担当者がシステム運用技術の習得を行っています。
これによって、今まで「紙と鉛筆」で行っていたダイヤ編成作業や車両・運転士の管理がシステムによって効率的に行えるようになるのみならず、運行計画の策定を行えば自動的にGTFS-JPデータが生成される体制が整備されます。
今後ベテラン職員の退職や人員不足などが予想される中、ICTの活用で「働き方改革」を行い、バス事業者の生産性向上を目指します。
効果的なICT利活用
リアルタイムでバス運行状況をお知らせ!
GTFS-JPデータをベースに、バスに搭載したGPS機器から取得した位置情報(緯度経度)などを組み合わせ、バスの遅れを加味した到着時間を案内するデジタルサイネージを市内の病院待合室に設置しました。乗車するバスが定刻通りに来るかどうかがわかりにくいという不安が解消されるとともに、夏や冬に屋内でバスを待つことができるようになるなど、利用環境の改善につながっています。
バスロケでサンタを追跡!
クリスマス飾りを施した「クリスマスバス」の運行に際して、バスの現在位置を地図上に表示するバスロケーションサービスを行いました。クリスマスバスというイベント性のある取り組みと、情報発信手段のバスロケーションサービスを組み合わせることで、単なる移動手段ではない「愉しみの公共交通」を創出し、公共交通の魅力を引き出す可能性について示しました。
横展開
岐阜県内のバスデータ整備の火付け役に!
中津川市内のGTFS-JPデータの整備では、市内のバスだけが検索可能となるにとどまり、利便性向上は限定的です。そこで、近隣市町村や北恵那交通以外の交通事業者においても経路検索が可能となるように、広域的な環境整備を岐阜県に提案しました。これを受けた岐阜県は、交通事業者向け個別相談会や、市町村担当者向けデータ整備勉強会を開催するなど、岐阜県内の公共交通について「網」としてデータ整備が始まるきっかけとなりました。
サービス利用者の声
Google経路検索でバスを知る
馬籠宿行きバスの利用者アンケート調査を行ったところ、外国人回答者では、20歳未満と70歳以上を除く全世代において2割以上が馬籠宿行きバスをGoogle経路検索で知ったとの回答がありました。特に20代では4割を超えるという結果であり、インターネットで経路検索が可能となることで、外国人観光客に対しても、公共交通利用環境の改善につながるといえます。
導入費・維持経費
費用をかけずに利便性の向上へ
GTFS-JPデータは市職員が作成したため、特別なコストは必要としませんでした。その一方、市内に馬籠宿という外国人観光客が多く訪れる観光地を有する中で、インターネットによる多言語検索に対応したことで大きな効果を上げています。
今後、整備したデータの活用によって業務効率化が図られる上、公共交通利便性の向上によって利用者の増加も期待できることから、地域公共交通施策としての費用対効果は絶大です。
今後の課題と展開
中津川市では、市職員が自らGTFS-JPデータ整備を行いました。今後は、バス事業者や市の後任担当者が継続してデータ更新ができる体制を構築するため、データ整備勉強会を定期的に開催し、事業の継続性を担保する取り組みを行っていきます。
データ整備は、取り組み当初には新たな技能を習得する手間が発生しますが、それを乗り越えれば業務効率化が達成されるため、今まで十分出来なかった業務改善や利用促進の取り組みを行うことが可能となります。今後は整備されたデータも活用しながら、より利便性の高い公共交通サービスを目指して、さまざまな改善策を実施していく予定です。
目指すのは「いつまでも住み続けられる街」
私たちにとって、データ整備やICTを活用することは目的ではありません。ICTの活用を通じて、わかりやすく、使いやすい公共交通サービスの提供を行っていきます。住民利用だけでなく、観光客や来訪者にも公共交通に乗っていただくことで、利用者の確保となり、公共交通網の維持につなげていくことを目指します。
交通事業者や地域の方と連携し、公共交通を必要とする人が、安心して移動ができる街に、そして、中津川市をいつまでも住み続けたい街、住んでみたい街にしていくことが、私たちに課せられた使命だと考えています。
この記事に関するお問い合わせ先
定住推進部定住推進課
電話番号:0573-66-1111(内線324・328・329)
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更新日:2021年03月01日