作品紹介「郷愁」

郷愁(岩絵具方式特殊印刷 39×64cm)
本画 (1948):絹本彩色 110.2×179.0cm
東山魁夷画「望郷」
両岸の草なびく堤の上は細い道になっており、緩やかに蛇行する川に沿って、遥か遠くへと続いているかのようです。川が遠くの方で消える辺りには、小さな橋が架かかっていて、田園の向こうには、なだらかな山なみが広がっています。東山魁夷は、茅野から諏訪へ向かって歩いてゆく途中で、ふと通りがかりに見たこの風景に心惹かれ、思わずスケッチを残しました。
本制作では、写実的で細かな描写を、青色を基調とした岩彩で塗り込み、淡い空の輝きや遠景へと向かう緑から青の濃淡、ほの白く見せる川の流れの表現によって、夕暮れの静けさを伝えています。
魁夷は、全国を旅して各地の名所や景勝地ではなく、山や湖など普段見なれた景色を捉えて、静かで心癒される自然の風景を数多く描きました。
横浜の海岸通りで生まれ、少年時代を神戸で過ごした魁夷にとって、「郷愁」のような清らかな水の流れる青い山の風景は、本来の故郷のイメージではないはずです。しかし、故郷を離れ様々な場所を旅する中で、幼少の記憶に残る海辺の風景とは別に、小学校のときに歌った「山は青きふるさと、水は清きふるさと」のようなきれいな水の流れる青い山の風景こそが、日本人の心の奥底に存在している風景であり、より象徴的で根源的な日本の原風景であると考えるようになりました。
この「郷愁」について魁夷は、「その情景が根深く、静かな映像となって息づいているのを感じる。私の心を誘うように、深い所から呼んでいるものがある。」と語っているように、信濃で出会った一風景に、日本人の心の故郷を想わせる哀愁と懐かしさを感じたのではないでしょうか。
中津川市東山魁夷心の旅路館
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更新日:2025年01月06日